住宅とは見学すると舞い上がる魔性の商品
2021年1月2日
2021年1月2日
さて、今回はとあるクライアントさんのお話です。
この方(Aさん)は45歳の独身男性で、家の近くに新築マンションが建つことになり、物件の見方の相談に来られました。
・多額の借金で買う以上、いざという時に売れて貸せる物件か
・首都圏直下型地震に備えて、災害安全度が高い物件か
・Aさんにとって住み心地の良い物件か
ひとしきり私のレクチャーを受けるうちに、Aさんは私と一緒にまずはブラヤマダをして不動産の勉強をすることに決めました。
「山田さん、ぜひよろしくお願いします!ただ、予約を入れたので、近所のマンションのモデルルームはとりあえず見学してきます。」
私も、見るだけなら参考になるので良いから止めませんでした。すると後日、Aさんから電話がありました。
「山田さんにどうしても相談に乗ってもらいたくて電話しました。実は見に行ったマンションがものすごく良くて、買うかどうか迷っています。」
ああ、やっぱりな・・・私は自分がマンションを買った時を思い出しました。
最新の設備に広々としたリビング。住んでいる賃貸よりは断然、素敵な住空間です。
加えて、営業マンのセールストークに完全にやられます。
Aさんもすっかり、冷静さを欠いていて、私に電話してきたのは相談というより、後押ししてほしいためでした。
まだ数件しか物件を見ていない中、もう決める気満々です。
エリアの災害のリスクや、マンション特有のリスクなどを改めて話して、もう少し勉強してからでも遅くは無いと話しました。
「でも、これだけたくさんの人が住んでいるし、死ぬときなどうせみんな死ぬんだから・・・」
Aさんの言葉に、私はもうすべてを察しました。
恋愛に例えると完全にお熱の状態で、舞い上がってしまっています。もう、止める手立てはありません。
「わかりました。いずれにしても決めるのはAさんです。私の支援が必要になりましたら、またご連絡くださいね。」
その日はそれで電話を終え、私はきっと、Aさんはそのまま新築マンションを買うんだろうな、と思ったのです・・・
電話口の向こうの声は、情熱の恋に落ちた人のように聞く耳を持たない状態です。
いや、むしろこうなると無用なアドヴァイスはすべて、かえって思いを募らせることになります。
人の恋路もそうですが、ロミオとジュリエットよろしく、周囲の反対や障壁があるほどに燃え上がるのです。
「わかりました。サポートが必要な状態になりましたら、またご連絡くださいね。」
来るもの拒まず 去る者追わず
決めるのはご本人ですから、説得など無粋
そうしたところ、二日ほどたってすっかり忘れたころ、Aさんから着信がありました。
「なんだろう。契約の報告かな。だとしたら、ちゃんと祝福しよう。」
そう思って折り返すと、思いもよらない返事
「山田さん、申込をキャンセルしてきました!」
聞けば、やっぱり災害リスクが気になって、これはまずい、と思い留まったそうです。
でも、このケースはごく一部で、大半の人は地盤が悪いことを知らずに、知ったとしても不動産の魔性の魅力に取りつかれて買ってしまうと思います。
関東大震災の時の、死者や倒壊などの被害が起きたのは、実は地盤の悪いエリアに集中しています。
地震の時の揺れ方も、たとえば地盤の悪いエリアで震度7だとしても、地盤の良いエリアでは震度5強くらいで収まることも想定されます。
※震度7だと建物によって倒壊や傾きが生じますが、 震度5程度だとほぼ、建物に影響はありません。
不動産の情報開示はこれからますます進みます。
こういった地盤による資産価値の算出などで、赤裸々になると、より一層の資産性の差が生じるのです。
脆弱な地盤のエリアに既にお住まいの方にとっては、ご自宅の価値が落ちるので、あまり好ましい開示とは言えないかも知れません。
ですが、こと国民の生命と財産を守る不動産が、適正な情報開示による取引が促進されることは、とても歓迎すべきだと思います。
その日は刻々と近づいていますので、住まいの選択が、将来のご自身の不動産資産の価値を決めるのです。