災害リスクを制する者がマイホーム購入を制する
2021年1月20日
2021年1月20日
日本のどこに住もうとも、私たちは地震など様々な自然災害のリスクからは逃れられません。
マイホームの購入に際して、その地域の災害リスクや情報を得られたり、相談できるところが区役所や市役所にあると、いきなり不動産屋さんに行くしかない今よりもずうっと、安心して家探しができると思いませんか?
でも今はそういうことが期待できない以上、自己防衛するしかありません。買った後に思わぬリスクが顕在化して、「こんなはずじゃあ無かった!」という悲しい思いをしないように、購入前にしっかりと調べて学んでいきましょう。
-目 次-
1.一番の災害対策は実は家を買う前
1-1.日本の都市のほとんどが災害リスクが高いエリアに立地している理由
1-2.自然災害とともに住む私たち
1-3.古地図がすべてを物語る、災害に強い土地
1-4.首都圏では3つの台地と丘陵を制すれば、災害に強い家に住める
1-5.台地がすべて安全とは限らない~一見してわかりにくいリスクを知る~
1-6.東京東部はずぶずぶの地盤
1-7.海面よりも低い街と川沿いに潜む地球温暖化のリスク
1-8.地盤沈下で現在も実は海面下!の東京低地
2.いつの時代も豊かになると人は地盤の良い場所に住みたがる
3.地形は子どもの教育環境や治安にも影響している
4.自然災害だけでなく「人的災害」のリスクも知る
4-1.交通事故リスク
4-2.犯罪遭遇リスク
1.一番の災害対策は実は家を買う前
火災や水害、崖崩れなどさまざまな災害を想定して、防災訓練をすることも大切なことですが、もっともっと大事なことがあるのではないでしょうか。それは、住む前に災害リスクを検証しておくということです。
1-1.日本の都市のほとんどが災害リスクが高いエリアに立地している理由
日本は小さな島国ですが、にもかかわらず1億人以上の人が住んでいます。世界ランキングで見ると、国土面積は62位で地球の総陸地面積に占める割合は0.25%ですが、人口は10位です。
さらに、ただの島ではありません。世界から見て「ありえない」がいっぱい詰まった島なのです。
ただでさえ小さいのに、そのうち約7割は森林=山地で人が住めません。結果、都市圏に人口が集中し、東京圏に至っては3,700万人を突破して世界屈指のメガロポリス(大都市圏)を形成しています。
さらに、世界全体で発生する震度5以上の大地震のうち約4分の1が日本で起きています。日本で地震の無い場所を探すことの無意味さが理解いただけると思います。
1-2.自然災害とともに住む私たち
「地震 雷 火事 おやじ」という、怖いものを列挙した日本語があります。これに台風、洪水、そして津波と挙げればきりがないほどの日本は自然災害大国です。
ですので、防災訓練や災害対策グッズを準備するのはあくまでも対症療法であることを認識したうえで、地形や地盤に気を付けて住む場所を探し、根本原因を極力取り除く努力をすることが、家を探すうえでは重要であるように思うのです。
1-3.古地図がすべてを物語る、災害に強い土地
関東平野で特徴的なのは、大地と低地がはっきりとわかれていることです。これはどのようにしてできたのでしょうか。ここでは関東平野を例に記述しますが、全国の地方都市圏が所在する平野部にもすべて適用できる内容です。
およそ6~7000年前、地球温暖化により地表の氷が溶け、場所によっては海面が今より100m以上も上昇しました。日本においては、首都圏のかなりの範囲が海になりました。東京湾が内陸深くまで拡大したイメージです。
1-4.首都圏では3つの台地と丘陵を制すれば、災害に強い家に住める
災害に強い家を探す場合にはとても重要なキーワード、それは「東京の武蔵野台地」「埼玉の大宮台地」「千葉の下総台地」そして「神奈川(とくに横浜)の多摩丘陵」です。
これらの台地と丘陵は固くて揺れにくく、洪水や津波などの水害リスクも低い土地を求める人は、押さえておくべき基本的なエリアです。
1-5.台地がすべて安全とは限らない~一見してわかりにくいリスクを知る~
ですが、これらの台地や丘陵といった固くて標高が高い地盤も、まったく安全かというとそういうわけでないこともぜひ、知っておいていただきたいことです。大地と言っても、自然地形ですので、ほんとうに台のようにまったく平らだったわけではなく、凸凹していたのを高い場所を削って低い場所を埋め立てたりしているからです。
1-6.東京東部はずぶずぶの地盤
「7000年前は海だった」という縄文海進。どこがどう海だったのか、改めて検証してみましょう。
東京は、今でいう京浜東北線を境に東側はすべて海でした。荒川沿いは埼玉県の大宮より先の川越方面までも海が入り込んでいました。
江戸川沿いは埼玉県の幸手市北部まで、利根川沿いは茨城県の古河市あたりまで東京湾の深い入り江となっていました。
都心部を細かく見ると、有楽町や日比谷は海です(日比谷入江)。台東区の上野公園や文京区の東京大学あたりも海です。品川区の京浜東北線よりも東側、川崎市の低地もすべて、横浜市でも坂のある山側エリア以外の平地部分はほぼすべて、海でした。
千葉県側にいくと、船橋市、千葉市の中心部も海です。このように、7000年前に海だったところは現在、多くの大都市が存在し、数千万人が居住しています。
京浜東北線を南へ下っていくと、多摩川を超えて川崎に入ると、真っ平らになります。このあたりは海だったところです。川崎という地名からも、水を想起させます。さらに横浜方面に進むと、今度は鶴見川を越えます。鶴見駅に着くと、西側は急坂で東側は平坦です。
この景色は横浜駅あたりまで続きますが、坂のある山側が下末吉台地と呼ばれる堅固な地盤です。
また、秋葉原から総武線、日暮里から京成の成田スカイアクセスに乗って千葉県方面に進んでいくと、小岩や新小岩、青砥、高砂、新柴又あたりまでは東京低地という東京湾だったエリアが続きます。
江戸川を越え千葉県に入ると、総武線では市川あたりから北側に帯状に森が見えますし、京成成田スカイアクセス線では、それまで高架だった線路が急にトンネルに変わります。これが下総台地で、車窓からは崖線が緑に覆われて続いているのがよくわかります。
以前の波打ち際と台地が織りなす、このような崖風景はなかなか風情のある景観を醸成していますが、一方でいくつかの場所が急傾斜地崩壊危険区域に指定されています。
数千年前の人の手が入らなかった日本の原風景に思いを馳せつつ、いざ住まわんとするならば、確実に危険が伴う地域であるという認識も持つ必要があるのではないでしょうか。
1-7.海面よりも低い街と川沿いに潜む地球温暖化のリスク
関東の低地のうち、東京にある部分を東京低地といいます。前述したように、京浜東北線を境に東側が東京低地です。関東平野の低地のうち、一番沈んだ部分が東京低地に相当します。
ただでさえ低いのに、高度成長期には工業用水確保のための地下水の汲み上げすぎで、さらに地盤沈下しました。そのため、ほかの低地よりもゆるゆるの部分が地下深くまで存在します。
1-8.地盤沈下で現在も実は海面下!の東京低地
さらに東京低地の大部分は、海が退いたはずの現在でも実は海面下で、平均満潮面より標高が低いのです。東京には標高がマイナスの場所「ゼロメートル地帯」が存在し、自然の営みでできたのではなく、人間の所作により起きた地盤沈下が作り上げた地帯なのです。
2.いつの時代も豊かになると人は地盤の良い場所に住みたがる
古くから神社はその地域を見下ろす高台に建てられ、お城も同様に地盤の良い高台を選びました。
明治維新で真っ先の西洋の人と文化が入ってきた横浜や神戸の街も、日本人は横浜だと関内、神戸だと長田あたりの低地に住み、山手や北野などの高台で地盤の良い場所にこぞって西洋人が移り住んできました。いまも西洋館や異人館のある洋風の風情が漂っています。
この時代に浅草で成功した商売人も、こぞって東京低地から脱出し、千葉県市川市の国府台など、下総台地に「避難」していきます。谷の町渋谷区でも、松濤など有名な高級住宅街はやはり高台で、人気の世田谷区も全体が武蔵野台地に乗っかっています。
東京の地盤高図に世帯年収分布図や大学進学率図といった異なる要素の地図をレイヤーのようにして重ねていくと、地盤の低いところは低年収で低学歴、高いところは高年収で高学歴な世帯が分布し、面白いほどに一致するのがわかります。
資産や知識が蓄積するほど、人という存在は、それを災害で一瞬にして失ってしまう怖さを肌感覚で感じているかのようです。
この結果、首都圏では「の」の字を描くように地価高い順に東横線~田園都市線~小田急線~京王線~中央線~西武線~東武線~京成線と城南方面から多摩地域、埼玉方面から千葉へと下がっていくように分布しているのです。
3.地形は子どもの教育環境や治安にも影響している
地盤が良いエリアは比較的年収が高い人たちが好むエリアです。逆に、地盤があまり良くないエリアは年収が低い方々が住む傾向があります。
一概には言えませんが、一般的に高年収層エリアのほうが低年収層エリアよりも緑が多くて落ち着いた住環境が形成され、低年収層エリアは庶民的な様相を呈していることが多いのです。
みなさんがいわゆる山手と聞いて持つイメージが高年収層、下町と呼ばれるのが低年収層のエリアイメージとほぼ一致するのではないでしょうか。これらのエリアを見分けるコツは、まさに読んで字の如し「山の上か、下か」です。
街を見渡して、坂も無く真っ平なエリアはほぼ間違いなく地盤があまり良くない下町で、坂があるエリアは地盤が比較的良好な山の手エリアと言えます。ただ、実際に物件を選ぶ際には詳細な地盤調査をする必要があるのは言うまでもありませんので、ここではあくまでも「そういう傾向がある」とだけ捉えてください。
4.自然災害だけでなく「人的災害」のリスクも知る
4-1.交通事故リスク
「集団登校の列に車が突っ込んで、子どもが死亡した」という痛ましいニュー
スを時折、耳にします。自然災害に対する防災訓練と同様、子どもに交通安全教育をすることはもちろん大切ですが、実は交通事故に遭遇するリスクも住むエリアによって異なるのです。
実は日本の都市は他の先進国(特に欧米)に比べて道路整備が遅れています。道路自体が少なく、幅が狭いうえに欧米の都市に比べて人が多く密集して住んでいます。そのうえ、歩行者と車が同じ道を通るので必然的に交通事故に遭いやすくなるのです。
ですが、これはとても地域差が大きいことも事実です。
車道としっかり歩行空間を分けた歩道や、車道と歩道の間にガードレールや防護柵が設置されていたり、緑色に路側帯が塗られていたり、ハンプや狭窄といった車道に車の速度を落とすしかけで交通事故を減らす工夫がしてある道があります。
また「クルドサック」といって、住宅街の道を通り抜けができないように行き止まりにしてある地域や、緑道など歩行者専用道路を整備して車と歩行者の道をしっかりわけている街もあるのです。
また、同じ道路幅でも交互通行と一方通行では交通量も、通行に要する空間幅もまったく異なるため、必然的にリスクは減少します。
首都圏を例に挙げると、京浜東北線あたりを境に23区の東部と西部では住宅街の歩行者対策に違いがみられます。
(写真:国土交通省松山河川国道事務所「国道196号自転車走行空間社会実験結果報告」より)
一般的に西部エリアの方が一方通行路が多く、路側帯が緑色に塗られていたり、ガードレールや歩道で歩行者の安全が確保されている印象です。
また、いわゆるニュータウンエリアは、計画的に街路整備をされているため歩道整備率が高く、そのエリア内であれば幹線道路にはほぼ、歩道が整備されていたり住宅街の道も何らかの歩行者対策が施されています。
気を付けなければいけないのは無秩序に郊外化したところで、こうしたところは以前の農道のような狭い道を住宅街として整備、道路を舗装しているだけのところが多く、交通量が多いうえに歩行者対策も追いついておらず、歩いていて怖さを感じる道が多いです。
気になるエリアの交通事故リスクを知るには、実際に街を歩いて体感するのが良いですが、地図上でもある程度わかりますし、Google Mapのストリートビューなども活用することをおすすめします。
4-2.犯罪遭遇リスク
ひったくりや窃盗、通り魔などの犯罪に遭遇するリスクも地域によって大きな差があることはご存知でしょうか。東京や大阪などの主要都市部では行政機関で「犯罪マップ」が作成、公開されているので参考にすると良いでしょう。
あとは駅からの道のりや通学路などを実際に歩いて、防犯灯や道路照明の間隔をチェックしたり、夜の明るさを確認しておくことがたいせつです。また、不審者が潜みやすい環境やそのような危険性のある場所がないかも入念に調べておきましょう。
ボックスカルバートやトンネル、廃屋などの隠れやすい場所は注意が必要ですし、あとは掘割の道路ですと両側が壁になっていて逃げ場がないうえ、大きな音を出しても民家に届きにくいなどの問題が潜んでいるので、このような道を通る物件は避けたいものです。